設計趣旨
通信技術の発展や多様化により、人々の生活はシステム化され、簡便な方法で目的を達成できるようになった。その一方で、時間や空間の感覚がこれまでとは異なるものとなり、それらを実体として体感できる機会が減少しつつあるのではないかと考えられる。川上浩司は、目的にたどり着くまでを楽しむ「不便益がもたらす益=不便益」の考えを推奨し
その過程で得られる様々な発見や出会いによって、目的がより特別なものになり得ることに言及している。また、アーロン・ヘラーらのチームは「人は移動するほど幸せを感じる」という「ホモ・モビリタス」の考えを発表し、古くから人々には環境を追求する欲求があるということを示唆した。本研究では、以上のことを踏まえ、人々が主体性をもって時間や空間を実感できる場が必要であるという考えに立ち、建築としての機能を十分に担保したうえで、機能からはみ出した余剰空間としての「余白」に着目し、人々が能動的に関与できる空間を「余地=余白」として創造したいと考えた。余白によって人々に自発的な行為を促し、その行為の軌跡の結果が空間の輪郭として描かれるような、新たな交流拠点となり得る建築空間の構想を、具体的な設計案として提示することを本研究の目的とする。